遺言書はなぜ必要?
●遺言による相続は法定相続に優先するという大原則
自分の財産を、どのように相続させたいのかという、最終的な意思表示の手段が遺言です。
原則として15歳以上であれば誰でもできます。
遺言によって被相続人の意志が明らかにされていれば、相続そのものをスムーズに進めることが
可能になり、残された者(相続人)へのメッセージによってトラブルを未然に防ぐことになります。
遺言の方式と種類
●普通方式と特別方式
遺言は必ず文書にする必要があります。文書の仕方には民法により決められた普通方式と
特別方式という二つの方式がありますが、一般には普通方式で作成され、病気や事故で死が間近にせまつているような特別な事情に置かれているような場合だけ特別方式で行われます。
普通方式の遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の三つの種類があります。
●自筆証書遺言(民法968条)
名前の通り全てを自筆で書く必要がありますが、自分の意志でいつでも自由に作成することが
できます。ワープロで書いたものや代筆は無効です。また、日付、自分の氏名、押印のいずれか一つが欠けている場合も無効とされます。加除訂正をする場合にも法律で決められた方式があるので
注意が必要です。
書き終わった遺言を封筒に入れて「遺言書在中」と上書きします。封印をする、しないは自由ですが、封印した場合には、死後、家庭裁判所での検認を受けなくてはならなくなります。
内容を秘密にすることができ、お金もかからず手軽に書けますが、遺言書自体の紛失や死後に隠蔽される恐れも十分にあります。
●公正証書遺言(民法969条)
公証役場において証人二人以上の立ち会いのもとに、遺言者が遺言事項を口述して公証人が筆記し作成するものです。文字の書けない人であっても自分の意志を口述できれば,法的に定められた方式で作成することが可能です。
公正証書を作成するにはお金がかかり、証人も二人以上必要なので遺言内容が分かってしまいますが、原本が公証役場に作成から二十年間(又は百歳になるまで)保管されるので、偽造、隠蔽の恐れが無い最も確実な書き方といえます。検認の必要もありません。
●秘密証書遺言(民法970条)
遺言内容の秘密を守りながら、遺言書の存在を明らかにすることができる方式です。本文は代筆でもワープロでもかまいませんが、署名は自筆に限ります。加除訂正は自筆証書遺言同様、厳密な方法が要求されます。
作成した遺言書を封筒に入れて封印します。公証役場て証人二人以上の立ち会いのもとに公証人に提出し、自分の遺言である旨、住所、氏名を申し述べます。公証人はその申し立てと日時を封紙に記載し,本人・証人とともに署名押印します。
公証役場にその日遺言者が秘密証書遺言を作成した事実は記録されますが、公証人にも内容がわからないので、死後、家庭裁判所で検認を受けたときに不備があった場合には無効になります。これにはお金がかかり、証人も二人以上必要になりますが、遺言書の紛失や死後に発見されなかった場合には無駄になってしまいます。
遺言の内容
●法的に効力のある遺言事項とは?
民法は、法律に定められた遺言事項(「法定遺言事項」と言います)を民法に定められた方式に従って遺言した場合にしか法的効力を認めないこととしました。 以下、分野別に掲げる事項であれば遺言としてできることということになります。
相続に関する事項 @推定相続人の廃除、廃除の取消し(民法893条、894条2項) A祖先の祭祀主宰者の指定(民法897条1項参照) B相続分の指定、指定の第三者への委託(民法902条1項) C特別受益(遺贈・生前贈与)の持戻しの免除(民法903条3項) D遺産分割方法の指定、指定の第三者への委託、遺産分割の禁止(民法908条) E各共同相続人間の担保責任に関する別段の意思表示(民法914条) F遺贈の減殺に関する別段の意思表示(民法1034条ただし書)
財産処分に関する事項 @遺贈に関する事項(民法964条) A相続財産に属しない権利の遺贈における遺贈義務者の価額弁償に関する別段の意思表示(民法997条2項ただし書) B一般財団法人設立の意思表示(定款記載・記録事項の定め)(一般社団・財団法人法152条2項) C信託の設定(信託行為)、受益者指定権等の行使(信託法2条2項2号、3条2号、89条2項) D生命保険金の受取人の変更(保険法44条)
身分関係に関する事項 @認知(民法781条2項) A未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定(民法839条、848条)
遺言の執行に関する事項 遺言執行者の指定、指定の第三者への委託(民法1006条1項)
遺言作成の準備
●財産目録を作成する
財産をリストアップし、不動産・預貯金・有価証券・動産といった種別ごとにまとめたものです。不動産であれば権利書や不動産登記事項証明書等により対象を特定できるようにすることも必要です。
●誰にどの財産を相続させるか
民法は、相続人となるのかについて定めています(法定相続)。法的効力のある遺言によればこの原則によらないで相続分の指定ができ(指定相続)、民法の規定より優先します。(指定相続分、民法902条1項) まず、誰が自分の推定相続人なのか戸籍謄本等を取り寄せ調査をする必要があります。また、推定相続人以外の個人・法人に遺贈することも可能です。その上で、財産目録のどの財産を誰に相続するか相続分の指定を考え決定します。
●推定相続人の廃除とは?
推定相続人に以下のような非行があった場合に、被相続人が家庭裁判所に請求しそれが認められることによって、その推定相続人の相続権を奪うことができるとされています。(民法892条)。 @被相続人を虐待した場合 A被相続人に対して、重大な侮辱を与えた場合 B推定相続人にその他の著しい非行があった場合 また、廃除は遺言によってもすることができ、その場合、廃除された者は、相続開始の時にさかのぼって相続権を失うことになります(民法893条)。
●遺留分とは?
遺留分とは、被相続人が有していた財産の一定割合について、最低限の取り分として、法定相続人のうち兄弟姉妹以外の相続人に保障する制度をいいます。遺言による相続分を指定することにより、法定相続人以外の第三者に全財産を譲ることも出来ますが、そのことによって相続人の経済的基盤を失わないようにするものです。
●特別受益者と特別寄与者
特別受益者 相続人が被相続人から遺贈(遺言による贈与のことをこういいます)を受けた場合と、婚姻や養子縁組のためもしくは生計の資本として生前贈与を受けた場合です。その場合は、「特別受益者」として相続分からその利益相当分を控除することになります。
特別寄与者 相続人のなかには、故人に特別に尽くした人がいるケースがあります。相続人の財産の維持に寄与した人を「特別寄与者」として算出された各人の相続分に対して寄与分を加えます。
●遺言と信託
遺言と信託の関係 遺言が「誰にどの財産をどれだけ残すかという指示を出す」ことに対して、信託は「どのように相続人に財産を与えるか、条件を付けることができる」という大きな違いがあります。 例えば不動産は、「遺言書」によって相続人を指定し、遺産分割協議の結果受け取ることになりますが、「信託」を使えば遺言書とは無関係に、受取人がすぐに受け取ることも可能になります(遺言信託は除く、次項参照)。 信託があれば遺言書はいらないではなく、それぞれが補完しあうことによって、自分の考えにより近い相続対策にすることができるようになります。
生前信託と遺言信託 個人の相続対策に利用する信託については「生前信託(遺言代用信託ともいう)」と「遺言信託」という分類があります。 家族内信託の場合を例に説明します。
@生前信託
【委託者が生きている間】委託者(信託の設立者)をご主人、受託者(信託の管理人)を奥さん、受益者(信託の受取人)をご主人として,契約書で信託を設立します。ご主人の決めたルールでご主人のために財産を使います。
【委託者が死亡した際】事前に指名されていた受託者である奥さんが財産を管理し、受益者であるお子さん(又は奥さんも)が受益者となり財産が移転します。
A遺言信託
【委託者が生きている間】委託者(信託の設立者)をご主人、受託者(信託の管理人)を奥さん、受益者(信託の受取人)をお子さん(又は奥さんも)として、信託は遺言書に書かれています。ご主人が生きている間は,信託はスタートしません。
【委託者が死亡した際】事前に指名されていた受託者と受益者として信託がスタートします。受託者である奥さんが財産を管理し、受益者であるお子さん(又は奥さんも)が受益者となり財産が移転します。
遺言書の保管
●発見されなければ意味がない!!
遺言を作成しても、死後その遺言書が相続人らに速やかに発見されなければ法定相続が開始してしまい、せっかくの遺言者の意思を実現することができなくなり意味が無くなってしまう事になります。
遺言書を自宅等で容易に発見できる場所に保管した場合、利害関係人による偽造、変造の危険性が生じますし、内容を知られてしまう恐れも生じます。更に、災害・火災・盗難等で紛失してしまう可能性も考えなければなりません。
遺言の執行
●遺言執行者
遺言によって遺言を執行する人が指定されていないとき又は遺言執行者が亡くなったときは,利害関係人が家庭裁判所に申立てすることより,遺言執行者を選任してもらうことができます。
遺言書において遺言執行者を選任した場合、相続人は相続発生と同時に相続財産に対するる管理・処分権を失い、その権限は遺言執行者が持つことになります。従って遺言執行者は、遺言の内容を忠実・公平かつスムーズに実現することができます。
●遺言執行者のおもな任務
@相続財産目録の A相続財産目録の相続人全員への交付 B遺産の収集・管理・処分等 C相続財産の交付 D受遺者への財産交付 Eその他
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